NHK連続テレビ小説『ばけばけ』の雨清水タエは、松江藩の名門に生まれたお嬢様。
ドラマのヒロイン・松野トキの親戚。その気品や教養、時代の変化に翻弄される姿が注目されています。
タエのモデルは実在の小泉セツの母・小泉チエで、茶道や三味線、謡曲に精通した才媛として知られました。明治期の没落した小泉家や母チエとの関係を背景に、プライド高く育ったタエがどのように生き抜くのか、松野トキとの関係がどう描かれるのかも見どころです。
雨清水タエとは?
家族
ドラマの設定ではタエの家族構成は以下のようになってます。
- 父:松家藩の家老職
- 母:不明
- 夫:雨清水傳
- 息子:
- 長男
- 次男
- 三男:三之丞
- 娘:?
タエは家老の娘
雨清水タエは、かつて松江藩で代々家老を務めた家に生まれた女性です。生まれながらのお嬢様。三十人近い使用人に囲まれて育ったので、その立ち振る舞いには凛とした品格とちょっと近寄りがたいほどの厳格さがあります。
夫を呼び捨て?
ドラマではタエが夫を呼び捨てにしている場面がありました。というのもタエの実家は松江藩で家老を務めた家柄。夫の小泉家は上級士族とはいえ、タエの実家よりも格下。
だからつい家老の娘としてのプライドが出てしまうのでしょう。夫の傳もタエが家老の娘なので頭が上がらない。それは明治になっても変わらないようです。
トキに教えを説く、古き良き武家の娘
タエはヒロインの松野トキ(モデルは小泉セツ)の親戚です。彼女の役割は武士の娘としての品格や礼儀作法、茶道といった教養を厳しく教え込むこと。三味線や茶の湯などの芸事にもたけているので名家の令嬢として身につけた優雅な振る舞いは完璧です。
欠点と戸惑い、人間味あふれる一面
完璧なタエにも浮世離れしたお嬢様育ちゆえの欠点があります。それは家事が大の苦手なこと。
また親戚であるトキとの距離感には人知れず戸惑いを抱えています。「親戚なんだから、あまり口出ししてはいけない」そう思っているのに、ついついトキのことが気になってしまう。そんな親心のような一面も持ち合わせています。
時代の波に揺れる「誇り高き女性」
タエが生きた時代は、文明開化の波が猛スピードで押し寄せ、身分制度が崩れ去った激動の時代です。
彼女はこれまでの誇り高い生活や「武家の娘」としての立場を守ることと、家族や子どもたちのために時代に合わせて生きることの間で激しく揺れ動きます。新しい価値観に適応できず、戸惑いや葛藤を抱える姿も物語の重要なテーマになるでしょう。
彼女は古き良き「誇り」と新しい「時代」の狭間で、懸命に生きる女性の象徴として描かれるのではないでしょうか。
「小泉チエ」雨清水タエのモデルとは?
雨清水タエのモデルとなったのは小泉セツ(小泉八雲の妻)の生母・小泉チエです。

小泉チエのイメージ
彼女は松江藩の名門中の名門である塩見家の一人娘として生まれました。塩見家は江戸家老を務めた格式高い家柄で、1500石を知行する重臣です。セツの父にあたる小泉家(300石)よりも実はずっと格上だったのですね。
チエは生まれながらにして美しさと高い教養を兼ね備えていました。三味線や茶の湯はもちろん、絵入りの物語である草双紙にも詳しく、まさに才媛という言葉がぴったりの女性でした。
誇りを受け継ぐ母
チエの父、つまりセツの祖父である塩見増右衛門には松江藩主の浪費を諫めて切腹したという武勇伝があります。セツは幼い頃から、この祖父の話を聞いて育ち、家族の誇り高き生き方を肌で感じていました。
母チエもまた娘セツに武家の誇りと教養をしっかり伝えます。松江藩独特の不昧流の茶道をはじめ、生け花、謡曲、鼓といった芸事も身につけさせました。
この教育こそが、後にセツがラフカディオ・ハーン(小泉八雲)を惹きつける大きな要素となります。八雲自身「日本の文化はセツから学んだ」と語るほど、チエが娘に授けた教養は彼の創作意欲を大いに刺激したのです。
養女として育った娘の複雑な思い
ただ、セツの心境は少し複雑でした。幼くして養女に出されたため、自分が「もらい子」だという意識が常にあったからです。
愛情を注いでくれた養父母には感謝と愛着を持っていたものの、実の母であるチエや小泉家の人々に対しては、幼い心に反発のようなものを抱えていた時期もあったといいます
「姉と弟は絶交し、実母にさえもやや反感をもっている」
出典:小泉節子,”思ひ出の記”,ハーベスト出版,2024年出版,p.117.)。
チエはそんなセツの想いを知っていたのでしょうか?でもチエとしても好きでわが子を養子に出したわけではないでしょう。子のいない稲垣家のためなのです。母としても辛かったのではないでしょうか。
明治の波に翻弄された晩年
しかし、時代は大きく変わります。明治に入り武士の時代は終わりました。幸いにも夫・小泉湊の事業で一時は裕福だった小泉家でしたが、やがて経営が悪化して倒産。さらに次男の早世、長男の家出、三男の遊興、そして夫・湊の病死と不幸が次々と襲い、家は完全に没落してしまいました。
チエはかつての名家の暮らしとはかけ離れ、乞食同然の暮らしをしていたといいます。
夫に逃げられ、離縁して小泉家に戻ってきた娘のセツは、没落した小泉家と稲垣家を支えるため、母チエの面倒を見ながらラフカディオ・ハーンのもとで女中として働くことにしました。
母・チエは1912年(明治45年)、波乱に満ちた人生の幕を閉じました。
名家の誇りと教養を最後まで守り通そうとしたチエの生き方は、娘セツの人生の土台となりました。
セツは自分を養女に出した小泉家、特に母には反感すら持っていたと言いますが。ラフカディオ・ハーンを引き付けた武家の娘らしい教養、立ち振る舞いはチエが教えたもの。人生とはわからないものです。
こうした小泉チエの生涯はドラマ『ばけばけ』の雨清水タエの人物像にも大きく影響を与えているようです。
演じるのは北川景子さん
雨清水タエを演じるのは、女優の北川景子さんです。北川さんにとってNHK連続テレビ小説への出演は初めてとなります。
雨清水(うしみず)タエ:#北川景子
松江でも随一の名家に生まれ、大勢の女中たちに囲まれながら何不自由なく育った。凛とした気品と厳しさを兼ね備える。
親戚であるトキにも、礼儀作法やお茶など武家の娘としての教養を厳しく教えている。#ばけばけ #9月29日スタート pic.twitter.com/NjAD5YVTnJ— 朝ドラ「ばけばけ」公式|9月29日(月)放送開始 (@asadora_bk_nhk) August 6, 2025
これまで大河ドラマでは『西郷どん』(2018年)で天璋院篤姫役、『どうする家康』ではお市/茶々役を演じるなど、歴史ドラマでの気品ある役柄で高い評価を受けています。
『ばけばけ』でも北川さんは名門武家の出身で、気品あるお嬢様・雨清水タエを演じます。発表されたビジュアルを見ると、大河ドラマの写真かと思うほど完成度が高い。歴史ある武家の雰囲気を見事に表現しています。でも「ばけばけ」は武士の世が終わった明治。お嬢様として生きられる時代ではなくなっています。
北川さんはインタビューで文明開化に翻弄される名家のお嬢様としての誇りや葛藤を丁寧に表現したいと語っています。
北川さんが雨清水タエをどのように演じるのか楽しみです。
雨清水タエに注目! 見逃せない3つのポイント
これまで見てきたようにタエのモデル・小泉チエの人生は波乱に満ちていました。その背景を知るとドラマ「ばけばけ」で描かれる雨清水タエの物語が、俄然面白くなります。
ここで私が注目する見逃せない3つのポイントをご紹介します。
1. トキとタエ、二人の関係はどうなる?
タエのモデル・チエはセツの実の母です。でもドラマではまだ松野トキと雨清水タエが実の親子であるとは明かされていません。
視聴者としては、この二人がこのまま「厳格な親戚」として距離を保ったまま進むのか、それとも物語のどこかで「実は親子だった」と明かされるのかが最大の注目点です。もし親子の関係が明かされたら、二人の間にどんな感情の爆発が起こるのでしょうか。その行方から目が離せません。
2. 「プライド」と「時代」の板挟みでどう生きる?
タエは家事もできずプライドだけは高い名門武家のお嬢様として育ちました。しかし文明開化の波が押し寄せ、武士の時代は終わりを迎えます。
そんな中でタエが持つ高い誇りをどうやって守り抜くのか、そして新しい時代を生き抜くために、彼女の考え方や価値観がどう変化していくのか。その葛藤と不器用ながらも変わろうとする姿は現代に生きる私たちにも深く響くはずです。
3. 史実をなぞるのか、ドラマ独自の展開か?
史実では娘のセツは夫の死後、没落した実家に戻り母のチエの面倒を見ながら、一家を支えるため懸命に働きました。
ドラマでも、この史実のようにトキとタエが一緒に暮らし、没落した家を支え合っていく場面が描かれるのでしょうか?
特に気になるのは、タエのモデルとなったチエに対して、娘セツが複雑な感情を抱いていたという史実です。トキが厳しくも愛のある親戚(あるいは実母)であるタエに対し、最終的にどのような感情を抱き、どのように支え合っていくのか。気になりますね。
まとめ
ドラマの登場人物である雨清水タエのモデルは小泉セツ(小泉八雲の妻)のお母さん、小泉チエです。
彼女は松江藩の名門・塩見家に生まれ、幼い頃から高い教養を身につけました。そして何より武家の誇りを娘であるセツにしっかりと伝えました。
その教えは、後にセツが国際的な作家であるラフカディオ・ハーンを魅了する日本文化の土台となったわけです。
ドラマで注目したいタエの行方
かつての名家のお嬢様として育ったタエが身分制度が崩壊し生活が激変する時代の変化にどう向き合っていくのか。その葛藤と誇りを守り抜こうとする不器用な姿は見どころです。
さらに実の母を複雑な思いで見ていた小泉セツの史実を踏まえると、松野トキとタエの親戚関係(あるいは親子関係)がどのように描かれ、二人が没落した家をどう支え合っていくのか。その人間ドラマから目が離せませんね。
関連記事
この記事では雨清水タエについて紹介しました。『ばけばけ』には他にも個性的な人物が登場します。登場人物の背景を知ると、物語をさらに深く楽しめますよ。
気になる人物像や史実モデルを合わせてチェックしてみてくださいね。
コメント